ウミガメの種類と特徴

 アカウミガメアオウミガメタイマイの3種は日本沿岸の海域に生息するだけでなく、春から秋にかけて砂浜に上陸して産卵します。また、オサガメヒメウミガメは日本では産卵しませんが、日本の周辺海域にも回遊しており、漁業によって偶発的に捕獲されたり、死体が海岸に漂着することがあります。以下に、この5種について概説します。

【ウミガメ類7種の概要】

ウミガメ上科 特徴 主要な
生息地
主要な産卵地 成体の大きさ甲長(cm)
(※2)
 



アカウミガメ 頭が大きく、背甲に付着生物が多い 温帯・亜熱帯 米国東部、ブラジル、日本、豪州、オマーン、ギリシア 70~100
アオウミガメ 頭が丸く小さく、背甲に付着生物が少ない 熱帯・亜熱帯 コスタリカ、豪州、マレーシア、オマーン、アッセンション島 80~110
タイマイ くちばしが鋭くとがり、背甲の鱗板は前後に重なる 熱帯・亜熱帯 メキシコ、豪州、インドネシア、キューバ、セイシェル諸島 60~80
ヒメウミガメ 他の種よりも背甲の鱗板が多く、オリーブ色を呈する 熱帯 メキシコ、コスタリカ、インド 60~70
ケンプヒメウミガメ ヒメウミガメよりも背甲の鱗板は少ない メキシコ湾・カリブ海・西部大西洋 メキシコ北東部 60~70
ヒラタウミガメ 体高が低く、背甲の縁は上に反り返る 豪州北部沿岸 豪州北部 80~110





オサガメ 硬い甲らを持たず、背甲には縦に7本の隆起が走る 寒帯を除く外洋域 ガボン、仏領ギアナ、スリナム、インドネシア、コスタリカ 130~160

(※1) 東太平洋の中南米沖に、通常のアオウミガメとは形態が少し異なるウミガメが生息しており、これをクロウミガメ(black turtle)と呼び、アオウミガメとは別種とする考えもある。しかし、まだ科学的な研究が行われていないために、現段階ではアオウミガメの亜種とされている。日本の南西諸島でも稀に見つかることがある。

(※2) カメは頚を伸び縮みさせるために、体の大きさの目安として、吻端から尾端までの「全長」は適当ではない。一般的には、背甲の正中線上の長さを測る「甲長」で表す。

 ウミガメ類は、爬虫類カメ目のウミガメ科とオサガメ科の総称で、現在は世界中で7種類(※1)が知られています。海での生活に適応するように、鰭状(ひれじょう)の四肢や薄く滑らかな甲らを持つなどの共通した特徴があります。

 アカウミガメアオウミガメタイマイの3種は日本沿岸の海域に生息するだけでなく、春から秋にかけて砂浜に上陸して産卵します。また、オサガメヒメウミガメは日本では産卵しませんが、日本の周辺海域にも回遊しており、漁業によって偶発的に捕獲されたり、死体が海岸に漂着することがあります。以下に、この5種について概説します。

アカウミガメ(絶滅危惧ⅠB類)の特徴はその大きな頭です。これは甲殻類や貝類を殻ごと食べるために強い顎が必要であることを反映しています。産卵地は最も高緯度に分布し、黒潮やメキシコ湾流など強い暖流が発達する大洋の西側に集中します。日本本土で産卵するウミガメといえば本種のことです。

アオウミガメ(絶滅危惧ⅠB類)は、「あさひがめ」とも呼ばれ、小さく丸い頭、丸みを帯びた甲羅、鱗板の旭模様などが特徴です。ウミガメ類では唯一草食性で、海草や海藻をはむために下顎には小さな突起が多数あります。熱帯・亜熱帯に広く分布し、その肉は古くから世界各地で広く利用されてきました。国内の産卵地は小笠原諸島と南西諸島ですが、摂餌域は本土沿岸にも広がっています。

タイマイ(絶滅危惧ⅠA類)は、「べっこうがめ」とも呼ばれ、我が国ではその鱗板がべっ甲細工の原料として利用されてきました。鋭く尖った嘴や背甲の鱗板が瓦のように前後に重なるなどの特徴があります。サンゴ礁の発達した海域に生息し、枝サンゴに付着する海綿類を食べます。他種に比べて島嶼部に分散して産卵する傾向が強く、日本では奄美諸島以南で産卵が確認されています。

ヒメウミガメ(絶滅危惧ⅠB類)は最も小さな種で、体は全体的にオリーブ色を呈します。頭が大きく、数十年前までは度々アカウミガメと混同されていました。これはアカウミガメと同様に硬い殻をもった底生生物を餌にしているためです。本種は「アリバダ」と呼ばれる集団産卵を行うことでも知られ、コスタリカのオショナル海岸では、数日間のうちに50万頭のメスが産卵します。

オサガメ(絶滅危惧ⅠA類)はウミガメ類では最大の種で、体が皮膚で覆われ、背甲に7本のキール状の隆起があるなど特徴があり、他の種とは別のグループに分類されます。クラゲ類を主な餌にしており、水深1000m以深へ潜水する能力もあります。

絶滅の危険性

身近にいると考えられているウミガメですが、世界的には、ジャイアントパンダと同じくらい絶滅の危機に瀕していると言われています。国際自然保護連合(IUCN)が、生物の絶滅の危険性を示すために作成したレッドリストには、タイマイオサガメ絶滅危惧ⅠA類(オラウータンやシーラカンスと同程度)に、アオウミガメアカウミガメヒメウミガメ絶滅危惧ⅠB類(ジャイアントパンダやシロナガスクジラと同程度)に区分されて、国際的に絶滅の危険性が高いことが認識されています。

国内でも、環境省が「レッドデータブック」(RDB)を、水産庁が「日本の希少な野生水生生物に関するデータブック」を作成していますが、それらにおいてもウミガメ各種が絶滅の危険がある生物として掲載されています。

<参考>

国際自然保護連合(IUCN)

 1948年に創設された世界最大の自然保護団体で、国家、政府機関、NGOなどを会員とする。6つの専門家委員会を有し、各分野の第一線で活躍する専門家約1万人がボランティアで委員を勤める。その中の生物分類ごとの専門家グループから構成されている「種の保存委員会」は、世界各地におけるウミガメ各種の資源調査を元に、レッドリストを作成しカテゴリー評価を行います。絶滅の恐れのある動植物種のリストを一般的に「レッドリスト」と呼ぶのは、1966年にIUCNが始めて作成した資料が赤い表紙であったことによる。

 そのほかに、「ウミガメ保護のための世界戦略」や「ウミガメ保護のための研究および取り扱い技術」といった手引書を作成して、ウミガメ保護の現場で活用・応用される具体的な指針を提供しています。

 近年、世界各国で行政組織や団体が地域ごとに独自のレッドリストを作成しているが、多くはIUCN版に準拠している。